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基本、自分日記です。

心にナイフをしのばせて

心にナイフをしのばせて

心にナイフをしのばせて

昭和44年の春、新学期を迎えたばかりの横浜の高校で起きた凄惨な事件。それは高1の少年が同級生の首を切り落としたという残忍なもの。「28年前の酒鬼薔薇事件」ともいわれる。

被害者の家族の人生は滅茶苦茶になり、犯人の少年は何と地方都市で弁護士として社会復帰していた。


このセンセーショナルな事実に、この本の発行後3年ほど経っているが読んでみた。

この本の9割が被害者の家族のこと。殺された少年を溺愛していた母親がしばらくは廃人同然だったこと。会社を途中で辞めた父親はガンを患い亡くなる。真っ暗な家族の中で踏ん張った妹。ここまで来ると、犯人のことよりも犯罪被害の悲惨さがメインテーマになり、大いに憤ってしまう。
そしてラストに犯人の少年が更正し、姓を変え、有名私大を卒業し弁護士になっていたことが明らかにされる。著者は彼と接するが、ふてぶてしく謝罪すらないという結末。


しかし、はて?この少年の人生が語られない点が残念である。
何故、少年は残忍な事件を起こしたのか?出所後、どういう気持ちだったのか?そして何故、弁護士になったのか?
この本は、始終、悲惨な家族を描き、最後に犯人を登場させたあげく、一方的に残虐無慈悲な弁護士を極悪とし、少年法の問題提議をする。
もちろん犯罪被害者やその家族の悲惨さは、果てしなく悲しいし憤る。
しかし、犯罪者側をも冷静に捉えた取材による事実も知りたいのである。